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2007年8月 5日 (日)

リクルート進学カンパニー エグゼクティブマネジャー 野嶋朗さん

あなたの意識が会議を変える
チームパフォーマンスを高めるための
ファシリテーション力アップ法
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私はキャリアカフェでコミュニケーションの講座を担当しているが、本業はリクルートの進学カンパニーという所で、高校生向けに大学、短大、専門学校の情報を提供する事業のカンパニーボードの仕事をしている。働き始めて20年、その間、多くの人と仕事を一緒にしてきた。またリクルートはスピードが速く、コミュニケーションを大事にしている。そんな中で学んできたことを、まとめて皆さまをシェアしたいと思っている。

コミュニケーションは技術だ

技術は磨ける。だからコミュニケーションは磨くことができる。磨き続けることにより、いろいろなチャンスが生まれてくる。ファシリテーションとは先導する、司会進行を行うなど、いろいろ解釈ができるが、語源的にはラテン語のファシリス(facilis=たやすい、容易)にate(=可能にする)を加えたものである。「合理的な結論・合意形成を図る」が私には一番しっくりする説明だ。

このファシリテーションの力が上達すると、集団による知的な相互作業を促進することができる。つまり、次のような集団の力学を変化させることにつながる技術といえる。生産性の低い集団、業務的な仲の悪い集団、ホスピタリティの低い集団、バラバラ集団、身勝手集団、アウトプットの質が悪い集団、答えの出ない集団、決まらない集団など。このような集団は、居心地悪くこういう会議に出ると嫌な気持ちになる。

よいファシリテーションは、生産性を向上させ、お互いの関心を高め、意思決定を迅速化し、相互信頼・コラボレーションを醸成し、方向性を一致させる。そして集団の健全度を高め、メンバーの気分をよくすることができる。ファシリテーションは「段取りの力」、「仕切りの力」とかいう言い方をすることもできる。

「仕切り」という概念は最近、「導く」という概念に変化している。その背景には小さな組織でも大きな組織でも、意思決定の機会が増加し、異分野の協業により何かを作り上げたり、現場からの材料やアイディアを集積したり、文系や理系に限らずいろいろな分野にまたがる学際分野の仕事などが増えているためといえる。こういう場合には、単に仕切るというよりも導くという事が重要なこととなる。

本題に戻るが、良いファシリテーターとは力をあわせて共通の目的を達成することを容易にする。そしてその対象は集団だ。コーチングと比較すると良くわかる。ファシリテーションは集団が対象であるが、コーチングは何かの課題や目標にむかって個人が動いていくことを支援する行為であり、違う目的を持っている。

ファシリテーションは3つの集団・領域がある。まず市民活動における社会的な合意形成の領域。日本でもようやく市民活動が活発になってきているが、そこでは企業と違った利害が働き、合意形成はなかなか大変で、そんな点からファシリテーションの重要さが注目されている。それから、組織・企業においてパフォーマンスを高めるための合意形成の必要性。私自身は、一番慣れている領域である。そして学習系としては学校での教育・学習の領域で、生徒の意欲を高めるために、教室という場の中で、教師のファシリテーション力を高めて行きたいという必要性が背景にある。共通していることは、中立的なスタンスで場を作って、グループ内のコミュニケーションを促進するという事だ。

簡単にキャリアストーリーを

以上が今日の話のサマリーであるが、今日はキャリアカフェなので、ここで私のキャリアを簡単に説明する。(野嶋氏のキャリアの軌跡に関してはキャリアカフェパートIの5回目の講義録を参照。)若いうちはコミュニケーションなど意識することもなく、説得やシナリオに頼ったりしていたが、組織を担当するようになってから、チームを指揮したりとか、マネジメントを経験するようになってコミュニケーションについて考える機会が増えた。年を取るに従い、人を元気にすることとか、場づくりとかを意識するようになった。さらに組織の活性のためには、ビジョンの発信、メッセージの浸透などを通じ、モチベーションを高めないとパフォーマンスが上がらないという事に気がついた。現在43歳になったが、いかに明確に説明をするかとか、新しい価値観をどのように作るかなどについて意識して仕事をしている。35歳から40歳くらいまで、修羅場体験もあった。コミュニケーションを技術だと意識をした頃から、コミュニケーション力は上がっていったと思う。

今日の本題のファシリテーションについて

ファシリテーションは会議での合意形成のために必要だが、会議とは、3人以上の人が集まり、協力して作業をすることであり、良い会議を行うためには5原則がある。

1. 一つの議題に集中する。

人は思ったことを言いたい、ある発言で、ガラっと場が変わってしまうことがある。

2. 議事運営方法にメンバーが同意している。

この会議の目的は、決定するためか、議論をするためかなど、皆が理解しているか。

3. オープンでバランスの取れた発言が交わされているように運営されている。

偏った誘導や、特定の意見が取り入れらたりすることがないようにする。発言量の少ない人の意見が反映されているか気を配る。

4. 個人攻撃を受けた人を守る役割の人がいる。

個人攻撃ではなく、その場の課題の指摘だという事に置き換える役割の人がいる。

5. 会議における役割が明確でメンバーが同意している。

進行役、意思決定者、書記が誰であるか皆、理解している。

会議の成否を図る基準

一つは結果であり、もう一つはプロセスがある。結果として、問題は解決されたか、期待値調整ができたか、意思決定ができたかなどが成否の基準となる。プロセスとしては、どのように解決したか、結論を導き出したか、モチベーションが上がったか、多くの意見を出し切ったかなどが成否を決める基準として挙げられる。

会議の成否と組織への影響

会議が上手く行かないと、参加者の意欲が低下するばかりでなく、職場やチーム全体の意欲が低下する。無駄な時間が増えることで職場の緊張感がなくなり、一部の人の感覚が基準になり、本質的な問題が見えなくなり、場当たり的対応が増える。特に役職者が集まる会議であるほど、会議の成否が組織全体に影響を与える。会議の質は組織全体の健全度の指標ともいえる。

ファシリテーター不在の損失

ファシリテーターが機能していないと、大声で発言した人が発言権を得たり、揚げ足を取る人が現れたり、発言のチャンスを得るためにエネルギーを消耗したり、部下は上司の顔色をみながら聞きたいことのみ話すようになったりする。これは組織にとって大きな損失だ。

よいファシリテーションのポイント

最初にゴールを示すこと、中立的なプロセス管理を行うこと、チームワークを醸成することなどがポイントになる。ファシリテーターが介入するのは、プロセスだけであるべきで、答はメンバーの中にあるという信頼を持ち、メンバーの気付きを促すような場を作る。そしてメンバー間の相互作用を起こす。

ファシリテーターに必要な力

聴く力、観る力、話す力・伝える力、感じる力が必要だ。発言したら聴いてもらえるという信頼感が発言を促す。話の腰を途中で折るような発言は、良いアイディアを生み出す土壌を壊す。またファシリテーターは参加者の表情を良く観て、発言に対する反応を読み取らなければならない。そして、分かり易い言葉に翻訳したり、質問は答えやすく聞き、現場感覚に沿った言葉で話すことが大切。現場感覚に沿った言葉で話せるためには事前にいくらかの宿題をしておくべき。さらに場の雰囲気やメンバーの気持ちを感じ取ることが必要。感じる力は観る力と近いものがあるが、なぜ、盛り上がらないのだろうか、なぜ、黙っているのだろうかなど、背景の思いを類推する力が大切。

困った会議

停止の会議/同質の参加者、予定調和の会議だったりすると、会議は前に進まず停止する。会議が停止してしまったら、別の角度から発言できる外側のメンバーをいれ、ちょっとしたあら捜しをするメンバーを作る。あるいは、地位の高い人の発言は抑えてもらう。

沈黙の会議/理解が浅くて発言できない、筋道が良くわからない、発言で自分が不利益になる場合など、会議は沈黙する。その場合、グループ討議など小さな会議に変えてみたり、どうして発言しないのかと突っ込んでみたり、あるいは誰かが発言するまで我慢比べをしたりする方法がある。

脱線の会議/声の大きい人、無理解な上司、現場知らずの人たち、非難されたくない人たちなどが話を脱線させた場合、勇気を持って話をさえぎり軌道修正する。また、議論したいポイントを示す、時間や場を変える、構成メンバーを見直すなど、一服入れるのが効果的。

混乱の会議/発言を独占する人、議事妨害をする人、個人攻撃をする人、評論家、あるいは同じことを繰り返す人が現れたりすると会議は混乱する。その時は、手際よく話をさえぎる勇気が必要となる。建設的な意見衝突への切り替えや、プラス思考の雰囲気を創ることが大切。混乱キーマンに対して、ある程度個別対応が必要。

ファシリテーション上達のヒント

よい参加者の心を知る。人の言っていることをきちんと受け止めるスタンスが大切。また、座る場所を意識する。座る場所で派閥ができる。なるべく、フラットに派閥ができないように席にも気を配る。また発言者のあら捜しをしない。最初の印象のみで、すぐに評価しない。良い点を見る努力をする。批判されてもめげない。自己弁護しない。

ブレストで訓練するコツ

少人数のブレストで訓練することがファシリテーションの上達に役立つ。

1.テーマを周知すること。このブレストで話したいことを明確にする。

2.問題や話の内容を具体化し映像化する。リアリティを高め場を盛り上げることができる。そしてブレストは創造的な空間となる。

3.タイムマネジメント。たとえば30分でよい意見を出すということを目標とし、逆算でプロセスマネジメントをする。これは大きな会議でも有効なマネジメントだ。

4.話をさえぎらせない。特にブレストを活性化するために、話は決してさえぎらない。参加者で言いたいことが重なる場合があるが、話をさえぎらずに上手にマネージする。

5.アイディアだしを刺激する。話を停止させないためにも批判させない。

6.常に前向きな場を作る。アイディアを出すブレストの場合は、沈滞したり停滞したりしがちなので、励まして、刺激を与え、前向きな空間を作る。

7.想像力を刺激する。個人の中から大事なものを引き出すようにつとめる。

8.書記をサポートする。会議とファシリテーションの質を高めるためには書記が重要。決まったことを確認し、誰が何を発言したか記録するため書記は非常に大事である。ファシリテーターは書記と連動すると有効。

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