第6回 (株)日本ホールマーク 代表取締役社長 畦地教子さん
チャンスは誰にでもやってくる
きわめて普通の私が社長の道を歩むまで
私は、ご覧のように極めて普通の人間です。背が大きくないこともあって、偉そうなオーラもなく、学歴は普通。留学経験もなければ、帰国子女でもなく、生まれながらのお嬢様でもない。一般的に育ってきたごく普通の女性が、流れに身を任せて生きてきた結果として今があります。目標をもって、それに邁進してきた結果としての現在を語ることができるのなら、その方が話としては面白いかも知れませんが、私のような例もあることを知っていただけたらと思います。
極めてミーハーな大学時代。適当に楽しんで、結婚するだろうと思っていた20代
父親は鹿児島での人で、非常に封建的な考えを持っていました。極端な話、女に学問は要らないと言うような人でした。目標も無く、適当に楽しみながら、ミーハーな大学時代を送っていました。将来は、2、3年、働いてその内結婚して、母親になるのだろうと漠然と思っていました。当時、女性の就職先は商社や百貨店が中心でしたが、コンピューター業界も伸びてきていて、4大卒を採用していました。私は友人と一緒に受け、最初に内定を貰ったからという安易な考えで、IBMの子会社に決めました。伸び盛りの会社だったこともあり、今思えば、そこではいろいろなことをやらせてもらいました。たとえば、営業部のアシスタントや、市場に出たてパソコンのインストラクターの真似事をしたり、晴海のショーでナレーターまがいのことをさせてもらったり、いろいろと、面白いことをさせてもらったのですが、だんだん、結婚とかで、同期が辞めていくのに、私も流されるように、3年10ヶ月で辞めました。
しばらくして「とらばーゆ」で契約社員の職を見つけて、アメックスに入りました。契約社員として1年間働き、その後正社員になりました。この頃から、ようやく仕事という事を真面目に考えるようになりました。マーケティングという職種にも出会い、初めてやりたいことに出会ったような気がしました。
キャリア形成の30代。「カッコいい」がキーワード
アメックスには、女性がたくさん活躍していました。そもそもミーハーな人間なので、男性と対等に働いている素敵な女性の姿を見て、「カッコいいなあ」と思いました。その時、「カッコいい」と思ったことがその後の私のキャリアを決めたという事も言えるかも知れません。この言葉は私にとってのキーワードとも言えます。アメックスで正社員になって、マーケティングでさまざまなことをさせてもらいました。たとえば、新規カード会員獲得、ゴールドカード・マーケティング、高額利用者へのロイアルティ・マーケティング、また、一番長くしたのが個人カードの宣伝広告でしたが、マーケティングには、ルティーンワークがなく、毎日が新しいことばかりでした。楽しくて仕方ない時期で、前のみ見て全力疾走していました。それまで勉強をしたことは無かったのですが、外では分かった振りをしてはったりで話してきたことを、あとで夜、勉強したりというような恥ずかしい思い出もあります。英語ができなかったのですが、上司が「君がこの仕事を続けていくには、英語がネックだねえ」と言われたりして、英語の環境下に身を置いたり、レッスンを取ったり、恥を掻きながらも、好きでもない努力をしてきました。この時期、多くの人と接し、すごく視野が広がったと思います。また、恥を掻いても、やって失敗した方が、しないでいるよりもよいと思うようにもなり、ずうずうしくもなりました。非常に楽しく仕事をしていたとはいえ、宣伝広告に大金を使ってもすぐに効果は出ないもので、もう少し、成果が数字で出る仕事をしたいと思うようになりました。
社内でのプチ転職。現場で一から出直し
アメックスでは、社内公募制度があるのですが、クレディセゾンとの新規事業のポジションで募集があり、これはチャレンジと思い、応募し異動しました。アメックスにとってはじめての提携カードで、プレミアムカードのアメックスと年会費無料のセゾンカードなら、ダブルところがなく、双方、補完関係になるだろうというトップの熱い思いはなかなか現場まで到達せず、鳴り物入りの新規事業なのに、当初は数字が伸びなくて苦労しました。私は部長職としてセゾンに出向したのですが、セゾンの人たちと、一緒に積み木を積み上げた試行錯誤の連続の時期でした。当初は会員数伸びず、目標にも達せず、月次の報告の発表では辛い時期を過ごしました。それでどうしようということで、まずは相手の懐に入って、相手を知ることからスタートしようと思いました。人間関係の構築から始まって、チームメンバーと一緒に全国の営業所を廻り、営業所の人たちと直接話をしました。そこで分かったのはトップと現場の気持ちの温度差でした。それで、社内で「アメックス委員会」というのを作り、まず、現場の人たちにアメックスのことを知ってもらい、ファンになってもらうことを考えました。非常に地道な作業でしたが、現場の人とのいろいろな情報を共有しました。その内、現場から、成功事例が出てきたりして、それの共有が大きな成功へつながり、成果の見える喜びを実体験することができました。最終的にはセゾンは、アメックスにとって、2年半で世界でも有数のパートナーに成長しました。
40代での転職。「こんなはずじゃなかった」と挫折感
セゾンとの出向契約の期限が切れた折に、縁があって、ホールマークのマーケティングのディレクターに転職にしました。タイミングが良かったのと、コンシューマー・マーケティングをしたかったので決めました。
セゾンの時も企業文化の違いはありましたが、同じクレジットカードの業界でしたが、今度は、業界も違い、規模も違い、期待とは大違いで、当初、多大な挫折感を味わいました。なかなか業績が悪く、組織も機能していず、実績も上がらず、始めて焦りを感じました。やめようかな~と真剣に考えたりもしましたが、負けず嫌いの気持ちも出てきました。転職後まず何をしたかというと、自分自身のマーケティングを始めました。つまり、自分の部下達は自分に何を求めているのかを知るために、1対1のインタビューを行い、部下達を理解しようと努めました。社員は強いリーダーシップと交通整理をしてくれる人が欲しかったのだと思います。マーケティング以前の問題だったのですが、そこからスタートしました。自分のチームの中では少しずつ進歩を実感し、商品もだんだんとよくなってきたのですが、会社の業績には繋がらず、自分の中でのフラストレーションが募って行きました。会社の業績が改善されなければどうしようもないということで、インターナショナル部門の社長である海外の上司に「やめます」と話したところ、思いとどまるように説得をしてくれて、その熱意にほだされて、留まる決意をしました。
辞めようと思ったのに、一転、社長職に
どうしてとどまったのかというと、たとえ海外でも、自分の理解者がいるという事に大きな安心感が生まれたことがありました。そして、一ヵ月後、思いもかけず、前任者の退任後に、社長職に就くことを要請されました。退社を留まった時にそのような話があったわけではないので、もう晴天の霹靂でしたが引き受けるしかチョイスがありませんでした。
社長職はマイナスからの出発でした。財政的には負のスパイラル。人を入れることもかなわず、まして自分の心の準備もありませんでしたが、ここでいままで自分が蓄えてきた貯金をすべて吐き出すことにしました。唯一の希望の光は、それまで2年やってきた商品開発での改善が見えていたことでした。営業も経理の経験もなし。流通に顔も売れていない。そんな状況でしたので、まずは、上司、同僚、部下のなかで自分のサポーターを確保するところから始めました。それから考えられることのすべてを行いました。まず危機感を共有するために、情報を開示し、皆が同じ立ち居地に立てるようにしました。それから分かりやすい目標を共有することにしました。初年度の目標は黒字化です。一緒に我慢して努力していくうちに、少しずつ皆の意識変化も起こり、顔つきが変っていくのが分かりました。初年度の目標を達成し、ささやかなお祝いの席を持つこともできました。
社長になっての変化は、踏ん張らないと社員やその家族が路頭に迷うかもしれない、放り出すことはできない、という責任感が出てきたことだと思います。また、人も組織もちょっとしたことで変わることができること、小さな成功体験が自信に繋がり大きな成功を導くことを実感することもできました。やるだけやってダメらなら仕方がないという開き直りの気持ちも生まれ、精神的に強くなったと思います。今後はビジネスのさらなる拡大と部下・後継者の育成に注力していくつもりです。
キャリアを伸ばすための仕事力
私が考える仕事力は、当たり前のことですが以下のようなことです。
・当たり前のことをちゃんとする。それも四の五の言う前にちゃんとやる。
・前向きである。否定から始まらない。否定からは何も生まれない。
・変化を拒まない。流れに身を任せてみる。
・楽しむ。いろいろなことに興味を持つ。好奇心を失くさない。
・継続する。石の上にも三年・・・
こういうように地道に努力していけば、自分のやりたいことや優先順位がおのずと見えてくると思います。
マネジメントとして大切だと思うこと
・バランス感覚
・客観性
・自己コントロール
・柔軟性
・社外相談役
その上で女性のマネジメントとして心がけていることは、自分をカッコウよく演出すること。つまり、後輩の女性があこがれるようなロールモデルを目指したいと思います。また、良い意味で女性という事を最大限利用することも大切だと思います。なんと言っても女性の方が目立つし、消費者としての女性の視点はマーケティングにとても大切だと思います。
(編集部より・・・この後、活発な質疑応答がありましたが、割愛します。)

